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2005年05月26日

野狐禅和尚の辻説法『癌センターの待合室で・・・』 №763

 作務衣姿で放射線治療を待っていると、見知らぬ患者さんから「お坊さんですか?」と声をかけられた。「そのように見えますか?」「ええ」ということで、「般若心経を毎日写経して唱えているんですが、“空”の意味を教えてくれますか?」と問われた。一瞬、迷った。“空”は、十牛図と同じで、その人の境涯で応え方がことなり、人を観て法を説かないと、かえって悩ませてしまう。多分、癌なんだろう。その声は弱々しいが、必死さを感じた。年のころ60歳くらいの初老のご婦人だ。「あなたは、写経をしていて、どんな気分になりますか?」と訊ねると、「その間は不安が薄らぎますね」。「じゃあ、心は“空も体”を解っているです。解らないのは“頭”だけですよ」。「いえ、解らないんです」。「ではね、不安な時と、不安が無い時では、何が、どう違いますか」と。「何かに夢中になっていると、楽のようです」。「ほら、解っているじゃないですか」。「“空”はね、諸行無常の根拠、決まりきったものは何も無く、全ては“思い”に随う、つまり“実体は無い”という真理を表わす言葉なんです。だからね、健康に拘るから現状が不安。生きて居ることに囚われているから不安。やれ科学だ、やれ宗教だ、やれ漢方だ、放射線だと偏るから、不安が起こるんですよ。人間、医者でも患者でも一人では生きられません。それを『無我』と言いますが、健康と病は、分けることは出来ないが、同じではないんです。ですから、私達だけが病気に選ばれたのではなく、誰だって病気になるし健康にもなるんです。『空』とはね、“諸行無常”と思って、心経を読んでみてください。そうすると、何故“拘らず・囚われず・偏らず”なのかが解りますよ。するとね、今日・此処を生き切ることの大切さが自然に解りますよ。一日を一生だと思って、生き切ってください。大事なのは“今・この時”以外に無いんです。今は、病と闘うんです。逃げたら負けますよ。大死一番、死ぬ気で生きるんですよ。一期一会も大切ですね。」・・・、すると、受付から声がかかり、そのご婦人は治療室へ消えた。「南無観世音菩薩、また逢えます様に」と心で合掌。ふと気付いたのだが、癌センターは、坊主が似合わない場所なんだな。次は、ジーパンで来よう。
慧智(050526)

投稿者 echi : 2005年05月26日 02:17

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